凍てつく海に降りかかってゆく雪。その甲斐のない雪の行く末のように淡く消えてゆく二つの若い命。儚さと彼らの抱いたせつなさを描いた部分に、主人公のどこまでも追いつけない辛さを感じた。
なぜ不満なのかな。。私はもうこれ以上中山可穂の小説のことを語るべきではないかもしれないと思いながら、つい書いてしまう。
主人公に魅力を感じない。
この主人公、鷹之には血の通ったものを感じない。彼の痛みを私の痛みと感じられない。おそらく、映子のニンフぶり、朔也の魅力に翻弄される鷹之は読者自身であるべきなんだろうな。。でも、映子の色艶や朔也の悪魔的美しさについて小説の中で語られるとき、私は冷めてゆく自分を感じる。
エピソードが細切れなせいなのか。もう何年もしないうちに死ぬと言われている息子のナースコールに、飛んでいかない母。でも死にそうになると身も世もなく泣き崩れる。鷹之には魅惑的に思われる映子の可愛い我侭は単なる子供っぽさに感じられ、朔也はただの病気の綺麗な子供。
なぜ彼が出世人生をなげうつまでにこの母子に引き寄せられたのか。。。
だめだ。鷹之に感情移入できない。
どうしても腑に落ちないのは珠代の存在。
途中まで、朔也とのやりとりまでは良いのに、鷹之にほだされた途端に魅力を失ってゆく。。。聖母マリアになってしまう。。
こんなに自分のない女性を、なぜ魅力的って思えるんだろう。。?
弱法師。
目の見えない少年を間に争う生みの親と育ての親。
この素材を、中山可穂はこの後の連載でどのようなコンテクストを使って育ててゆくのかな。
とりあえず、物語の最初ですべてを決めるのは辞めておこう。。
もう少し、もう少しだけ楽しみな作家を見守りたい。。
どうか、もう少しだけ。。
(2003年5月刊行・別冊文芸春秋掲載)
yoroboshi
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