私にとってク・ナウカっていつもいつも見てこんなにすっきりするものはないってくらいの欲求不満解消芝居なのよ(なんて表現)。
理由としては、つねに女性の立場が的確に描かれていて、その的確さが私のツボをいちいち押すというか。。
今回のアンティゴネもその部分はあったけれど、いつもとは少し違う趣を感じた。
理由のひとつは、以前は必ず採用していたやりかたであった、「語り手」と「演じ手」を分けること。それをほとんど使っていなかったこと。
ヨルはアンティゴネの美加里の声がか細かったのが逆に効果的と書いていたけれど、私自身それを読んで「そうか、そういう見方もあったな」と気づいたくらい。
美加里の声はもともとよい声とはいえないんだけど、普段声と体を分断された状態で演じていることが多いためか、声を出すことが逆に私には不自然にも感じられた。なんというか、しゃべるはずのない絵がしゃべった、みたいな軽い衝撃。
以前ク・ナウカのワークショップで宮城氏と役者数名が質疑応答をしてくれたときに、この質問をしてみた。
「普段演じ手と語り手が分けられているわけですが、外部の芝居への客演などで違和感はないですか」
と聞くと、役者の返事は以下のとおり。
「最初はとても違和感があってやりにくい。でも、逆に外で演じるときのほうがほっとしたりもする」
笑いを交えての返答で、隣で宮城氏も苦笑いしていたけれど、おそらく正直な気持ちだろうと思う。
実際、体を動かしながら声を出してはならないという演技は、相当一部にストレスを掛けているように思える。
今回のアンティゴネはそのストレスからほぼ解放された形での芝居だったわけだけれど、普段とは違うということが、私から見るとプレーンな演劇としてのク・ナウカの舞台を見直すことになった。
語り手と演じ手のぶつかりあいでいつも表現しているジェンダーギャップがないという理由は、見ていて分かった。
おそらくアンティゴネ自身には、おそろしいほどにすっぱりと断じた「女」としての自分しか存在しない。
男性に対しての女性、とか、社会の中で弱者としての女性、とかではなく、一人の独立した魂としての女性。
アンティゴネ自身の中ではそれははっきりしたこととなってる。
強いブレのない言葉と、一人の人間の分だけの、存在感。
対してのクレオーンは何人もの影(預言者?)を従えている。
全てのクレオーンが一斉にしゃべり、ドップラーみたいに台詞が反響して変化してゆく。
私が見たのは、都合よい変化と、都合のよい権力。
一人が声を挙げれば他が共鳴し、微妙なずれをおこしてゆく。そのズレはクレオーンの断定的な物言いを微妙にずらして、その言葉の強さを減じてゆく。
クレオーンが腕を振り上げれば他の者たちも腕を振り上げ、思うままにアンティゴネを弾劾し、数倍の圧力となって彼女に圧し掛かる。
弱く反響する言葉と、強い存在感。
それが、私が受け取ったクレオーンの印象。
アンティゴネは常に常に舞台の中心に居続ける。
たったひとりの存在として、中心の繭のような装置に囲まれて、閉じ込められて、そこで叫び続ける。
彼女を追いかける妹は、クレオーンと同じ複数の影を従えてアンティゴネの言葉を追いかけ、拒絶し、あるいは追従する。
やがて、死に赴くアンティゴネははじめて、舞台の中心からそれて、舞台に敷き詰められた石そのもの、大地そのものを従えて、自らの死出の旅へと一人向かってゆく。
けれど、そこにはアンティゴネを待つ多くの冥界のものたちがいることは、目に見えている。
対してクレオーンは、敵ばかり。
やがてクレオーンは自分の圧力(圧政)により、自らむごたらしくつぶれてゆく。
死が美しいわけでも、名誉が大事なわけでも、男がおろかなわけでも、女が賢いわけでもない。
ただ、力に頼るものは力に滅ぼされる。
大地を愛するもの、自らの神に祈るものは、自らの神に愛される。
見ていてひとつ、とても印象的だったのが、神という存在の扱い。
普段から私は、神というと、どうしても特殊な何かだったり、逆に「自分自身」になってしまったりで存在をつかみきれなかったんだけど、アンティゴネが語る神には素直に頷けるものを感じた。
まぎれもなくギリシャの神々なんだけれど、アンティゴネの語る「自らの信じる神に従う」というのは、「自我」を押し通すことでも、偶像崇拝をすることでもない。ましてや、何かにむかって祈ることでもない。
「自らの信じる」という部分が重要と感じる。
これは、「自らの愛する」としてもかまわないと思う。
死者を正しく弔うこと。
生きている者を正しく愛すること。
どちらも同じ、自らの愛する神に、自らの信念に従って従うこと。
ギリシャの神は日本の神と似ていると以前から思っていたけれど、ますます近いように思う。
生まれながら、心の奥に最初から持っているはずの神。
それを呼び起こして、生き方の教えを乞う。
アンティゴネの死にゆく姿は、彼女の神に従う最後の選択だったのだと。
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