ヘンリー&ジューンを見る。
アナイス・ニンの日記をもとに映画化した物語。
ユマ・サーマン演じるジューンが、そっとかばんから操り人形を取り出して、アナイスの前で声色を使って演じ始める。アナイスに旅費をせびった後で、平然とニューヨークへ旅立つと嘯いて背を向ける。石畳の上、操り人形を操りながら、独りでジューンは歩いてゆく。
ジューンの脆さは男性的で、強さは女性的。そう感じるのはあたしが性差別主義者だからかな。
物語の中核のひとつでありながら、大事な展開部分でまったく姿を見せず、物語の最初と最後だけ現れて消えるジューンが、私は気になってしかたがない。男っぽい男を絵に描いたようなヘンリーや、見た目も感性も世間が期待する女性らしさの範疇から決して外れないアナイスと違い、ジューンの中の性はつねに危ういボーダーラインをゆく。独りぼっちで歩いてゆけず、いつも操り人形をテーブルに乗せ、あるいは道をともに歩き、バッグに忍ばせてようやっと旅立てるジューン。愛しているとアナイスに云いながら、「ヘンリーをお願い」と夫の面倒を見させようと、二人を結びつけることで自分の形をそこに残そうと必死になる。
ヘンリーとアナイスが愛し合い始めたことに気付き、二人のもとを去ったジューンははじめて、独りだった。操り人形もつれず、影も残さずに、消えた。
別れてもなお、親友であり続け、たがいを励ましあいジューンへの愛を書き続けたアナイスとヘンリー。
ヘンリーとの仲に気付かぬまま、アナイスの愛を独りじめしていると思い込む夫ヒューゴー。
去ったきり、振り返らず舞台の上から消えてしまった、ジューン。
ジューンの吐いたタバコの煙が、操り人形を取り出すいたずらっぽい瞳に紛れて、頭の中を漂って消えない。
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