家族の前では優等生、学校では悪名高い里伽子と札付きの藤井の恋、里伽子の横顔を見続ける美樹、美樹の儚い影に心を寄せる里伽子の妹依里子。。。。とある恋人たちとその周囲を淡々と、しかし切ない視線で追った一夏の物語。心の傷を描く吉田秋生のペンタッチはいつでも優しく読者を包み込む。海辺の街で繰り広げられるささやかな青春を描いた秀作。
少女漫画雑誌で連載されていたこの作品、実は私、連載当時の表紙のイメージが持つ軽さから逆に敬遠してしまっていました。この作者の作品であれば、クールな画面に対してどこまでも熱いキャラクターたちがドロドロとしたドラマを展開するのを魅力と感じていたせいです。文庫になって読んでみて、「ああ、やっぱり「吉祥天女」の作者だなあ」とほっとしてしまいました。
タイトル通り、いくつもの恋人達のキスがテーマとなっている「ラヴァーズ・キス」です。それら恋人たちのうち、依里子の思い人は天敵ともいえる姉の親友である美樹。依里子は美樹が姉に恋していることを知っています。錯綜する恋心。けれど吉田秋生の作るストーリーは奇をてらうことなく平板な語り口で進んでいきます。
私にこの作品を奨めた恋人のお気に入りのキャラクターは「美樹」です。美樹の親友里伽子への不器用な思い、その行く先がないと分かっていても思いきることのできない切なさに共感を覚えるようです。美樹が里伽子の妹へ、里伽子への思いを静かに語っているときにふと口にする言葉。
「きもちわるいでしょ ごめんね
でもどうしようもないの
あたし 彼女に出会ってしまった」
そこにあるのはどんな形の恋人たちにも通じる、恋愛の真理に思えてなりません。
ラヴァーズ・キスに映画化の話があります。2003年公開予定とのこと。詳しくは分かり次第アップします。
わがまま読書というレビューサイトにレビューが載っています。
http://www.geocities.co.jp/WallStreet-Stock/4102/wagam/wagam033002.html
ヘテロセクシャルな視点からのレビューかな。。?でも永遠に失われたものへの憧憬というのは微妙に分かるような。。
ラヴァーズ・キスのファンサイト。タイトルそのまま、「ラヴァーズ・キス」
http://www.geocities.co.jp/PowderRoom/6892/lovers_kiss/index.htm
作品の舞台となった鎌倉近辺で作品中に登場するシーンをロケハンして写真を撮り、アップしているなかなかマニアなサイトです。作品世界にリアルに浸りたいかたはぜひどうぞ。
西日本新聞に掲載されたレビューです。
http://www.reviewers.jp/ronnbunn/katuki/k56.htm
ほどよい温度のレビューですが、少し気になったのが、同性同士の恋愛はすべからく「ジェンダーという鎧に覆われていない赤裸々なアイデンティティに触れてしまう」ものではないかなーということ。別に「淡い恋心」ばかりが美しいものではないように思うのですが。。。
以下、様々な「ラヴァーズ・キス」書評へのリンクを拾いました。興味のある方は覗いてみて。
YJ・Kのなんでもベスト
こんな漫画に衝撃を受けた!~その4~
吉田秋生『ラヴァーズ・キス』に見るミステリ的構成美
Comic's Room 吉田秋生『ラヴァーズ・キス』
(1999年8月1日・小学館(小学館文庫)・ISBN4091911838)
lovers_kiss
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