会場右手に移動していくと、幼児の人形が、バロック彫刻の天使二体に見守られて腰掛けている。
あどけない表情。すべて見た会場内の人形の中で唯一、暖かい命を感じる人形だった。
その上に飾られた写真。釘付けになってしまった。
在りし日の可淡。
対象物をみつめ、一心にねんどを捻る彼女の表情が写し出されている。
眉の線の綺麗な、白い肌の女性。作品のもつ、表面に見られる妖しさが全くない。
柔らかな線をたたえながら、その目と結んだ唇だけは、彼女が芸術に魅せられた人であることを語っている。
私が可淡の人形に本当に興味をもったのは、彼女が亡くなってからかなりたってからのこと。 興味を持っても、可淡自身についてはその突然の死ゆえなのか、あまり多くを人は語らない。
生前は多くの人形展を精力的に開き、人形教室のスタッフとしても熱心に後輩の育成に務めた人であっただからこそなのか。
彼女の人形のモデルとなったとある女性。
数多くの、その女性そっくりの人形が制作され、彼女に捧げられた。 (あくまでモデルの女性自身のインタビューでの話だが)彼女を追いかけて、家まで引っ越し。。。けれど決して実らなかった愛。そもそも実ることを願っていたのか。。
バイクでの事故死。
そういった背景から、私は自然と彼女を、少しマッチョな印象の男性ぽい女性と想像していた。
もっと極端なのは一緒に行った恋人で、彼女は可淡の写真を見た瞬間、ぽかんとした表情をした。どうしたのかと尋ねると、一言、
「女の人だったの。。。?」
彼女は私がさんざん可淡のエピソードを聞かせていたにもかかわらず、男性だと思い込んでいたのだ。
可淡の人形と、可淡自身、そして彼女にまつわるエピソードの数々。
それらをどうつなぎあわせても、当の可淡にはならない。
彼女は彼女、様々な逸話に彩られ、恋し、志半ばにして死した人形作家。
彼女は幸福だったのか、不幸だったのか。。?
彼女の人形だけが知っている。。
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