主人公ジェルミを虐待し、やがて彼の殺意を呼び覚まし、自らを殺す引き金を引いてしまう彼の義父グレッグ。
そしてグレッグの死後、彼へと同化していく息子イアン。
彼にイアンが同化していった理由は、イアンがジェルミに興味を持ち始めたことからじゃないのかな。
イアンはグレッグを尊敬すべき父と思っていたけれど、その父親像を作者はさほど克明には描いていないんだよね。
印象としては、中産階級家庭の平均的父親。
家族を愛し、再婚した体の弱い妻をいたわり、血の繋がらない息子を(表面上)かわいがる、ごく普通の父親。
つまり、イアンは父親にさほど大きな思い入れを持っているわけではない。
なのに父の死後、ジェルミが父に性的虐待を受けていたのでは、そしてそのことがジェルミに父を殺させたのではと疑いを抱いたとたん、イアンの中で父は並外れて家族思い、妻思いの父親に豹変する。
この豹変ぶりが曲者で、単に一方へひっぱられたショックの反動というものでは片付けられない。
自分があまりにも当たり前で「信じる」という意識さえなく信じていたものが、全く違う性質のものであったこと。そのことによって、もともと漠然としていた「信じる」ということの概念だけが引っ張り出されてイアン自身には制御できないほど巨大な理想の父親像に膨らんでしまったように思う。
つまり、ジェルミという存在がひとつの立場をはっきりととることによって、パワーバランスのためにイアンが死んだ(殺された?)グレッグの代わりにジェルミと対峙することを余儀なくされたというか。。
この話は長すぎるし、私としては疑問がたくさん残る(人を殺すという行為の意味については曖昧なまま終わったような気もするし。。)んだけど、私が好きなのは、「家族がいつもただしい」のではないこと、過ちは繰り返されるとは限らないことをきちんと描いているところ。
親の、兄弟の愛というのは絶対ではなく、時には家族の誰かを犠牲にして回る家族もあるのだということを、正面から描いているところ。
トーマの心臓で描ききれなかった部分を、再度宗教から離れて描こうと試みた作品のように思う。
ヨルに教えてもらったけれど、先日私はどうやら両親の夢を見たらしい。
らしい。。というのは、私自身は覚えていなくて、夢を見て飛び起きたとき、ヨルに必死で語ったことを後からヨルが教えてくれたから。
夢の両親は、私とヨルを引き離そうとあの手この手を使ってきたようだ。。
この印象は、もう15年も前に私が見た夢とたいした進歩がない(没)。
そして、同じ夜、私が覚えているもうひとつの夢の中、私の兄が目の前でベランダから飛び降りた。飛び降りたというよりも、頭がおかしくなってベランダから自ら宙吊りになり、誤って手を離して落下したというほうが正しい。落下してゆくときの兄の長く尾を引く間の抜けた叫び声が、数日たった今も耳から離れない。
こんな果てしもなく暗い夢を見る私も、別に日々暗いわけではないのよね。。
結構楽しくやっていることの、夢は代償なんだろうか。。
パワーバランスでジェルミを見つめる羽目になったイアンは、いつかジェルミに惹かれる。惹かれた先にあるのは喜びではなく、地獄の苦しみだった。
もし、愛することが地獄の苦しみなら、何がこの世の助けになるかしらん。。
やはり。。夢。。?
aino_daishou
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