リンチが特に好きというわけではないけど、たまに見ると面白くて吐きそうになる。甘くてどろどろしたスイーツとコーヒーの匂い。ジャンクフードがたまらなく似合う、毒を溢れさせる悪夢の映像が、くせになる感じ。ブルーベルベットなんか、最高。
私がリンチとしょっちゅう頭の中でごっちゃにしてしまうのが、キューブリック。
私は映画ファンではないので、作品数を見ていないせいなのか、あるいは単に見る目がないのか、あるキューブリックの映画を何度確認しても何年かするとリンチの映画だと思い込んでしまう。
それが、「Eyes Wide Shut」。
なぜこの映画をいつもいつも私はリンチ作品だと思いこんでしまうのだろう?
暗喩や最後まで謎の解けない伏線。
私が混乱する一番の原因は、おそらく女優の不可思議さ。Blue VelvetのロッセリーニとEyes Wide Shutのキッドマンはその強さと不可思議さで重なる。
実を言えばタイトル惚れ。
こういうのに弱い。見開かれているのに、見えていない目。
見て、ますますタイトルに惚れ。
夫と妻のただただ流れてゆく時間と愛情の垂れ流し。
垂れ流しても、それを互いの恥と欲にまみれてむさぼりあう関係。
心の内と逆に、見た目は何も変わらない。
淡々とした日常。
何も見えない。
けれど、すべて見ている。
劇場で見たときはラストシーンのキッドマンにヤラレタ。まじでヤラレタ。
ハンサムなトム・クルーズとゴージャスなニコール・キッドマン演じるビルとアリスの夫婦(当時はほんとに夫婦だった)の裏側の生々しさ。
自立した男女のカップルは年月を経て、バスルームの中、夫がひげを剃る隣で妻が平気で便器にまたがれる無頓着さを育てる。
圧巻は二人の依存関係の描き方。ビルは外ではいい男ぶっても、妻に対しては徹底的に情けないヤサオトコ。アリスはそのビルを甘やかすことで完全な支配力を保つけれど、一見その関係性は許しあう大人の寛容を装う。
実際はそうでないことは、キッドマンのラストショットで分かる。
女は決して男の浮気を許さず、男は決して、女に忠誠を誓わず。
そうして互いの人生の苦味をそれぞれのうちに堅く堅くかみ締めつつ、相手の痛いところを素手でさらに締付ながら、「愛してる」とつぶやきあう。
アリスの夫(の仮面?)を抱きかかえる優しい仕草。なのに裏腹な冷えたまなざしと、ビルの舌の上で転がる改悛の言葉が、エンドロールが流れる中、私の意識から去らなかった。
愛する人のすべてを見ながら、何も見ない。
こんなに恐ろしいのに、こんなに魅惑的な関係はない。
見えていない目を、限りなく見開かれた目を、私も欲しい。
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