父は元自衛官である。私がこの年齢になるまで一度も聞いたことがなかった三島事件の内部からの見方を聞いてみたくて、父に聞いてみた。
三島が市ヶ谷駐屯地の総監室を訪れ、総監を縛り上げて決起を促し失敗、自決した日、父はいつもどおり出勤していた。当然ながらニュースはすばやく自衛隊内を巡り、隊員がみな息を飲む中、三島は自決した。
私から見れば最右翼とも思える父の受け止め方は、以下の通りだ。
三島由紀夫は自衛隊のシンパであり、自衛隊の人間で彼に敬意を払わない人間は当時いなかった。
自衛隊のやりかたは生ぬるい。だから決起を促した。その思想については深く共感を覚えるものである。
しかし、軍隊の命令系統の上官たる人物(総監)を縛り上げたことは、彼の自衛隊へ対する、軍隊に対する、裏切り行為であった。
その結果、自衛官たちの反感を招き、彼の決起は失敗に終わった。
総監に対する裏切り行為を自ら認めた三島は、後悔のあまり自決した。
この際、三島が自決の前に方々へ別れの手紙を送っていた事実については父の頭にはない。
父の三島に対する思いは、以下の通りだ。
三島由紀夫が決起を促したという行動については正しい。
しかし、やりかたがまずかった。
現代彼のように立派な文学者で世間に対して強い影響力を持ち、かつ自衛隊のシンパたる人間がいてくれて、まっとうなやり方で自衛官たちに決起を促したとしたら、どれほど力となったであろうか。
そういう意味で、彼の自決はかえすがえすも惜しい。
私は三島由紀夫という人間に対しての父のかなり方向違いの心酔ぶりに正直言えばひっくり返るほどに驚いた。そういう解釈もあったのか。いや、右翼的発想ならそう来て当然か。三島の「憂国」なんて、父からすればもうそれはそれは教科書的思想だろう。
ちなみに父は三島由紀夫をおそらく一冊も読んでいない。。
関係ないけど大江健三郎も一冊も読んでいない。
でも、堂々と大江をけなし、三島を讃える。
お父さん、三島は、あなたがもっとも軽蔑する、男性を愛する男性でもありました。といいたい気持ちを抑えるのに必死でした。私の苦手な三島のマチズモだけを父は愛し、父の嫌いな情感的側面を、私は愛する。
早く、飛び立ちたい。ここから。ええ。
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