「鳥」に続いてのデュ・モーリア。
本の装丁を楽しむのも好きな私としては、この本の小ささと、その小ささなのに二段組であることやハードカバーであること、全体が軽いことに満足。色も軽快で好きだけれど、もう少し重みのある色でもよかったかな。
早川の「異色作家短編集」の一冊で、6つの短編を集めている。別に「破局」というタイトルの本はなくて、短編のひとつひとつがある意味この「破局」を孕んだ内容となっている。という名目どおり、救いが微塵も無い作品ばかり。読んだ二冊の短編集はたしかにどれも救いが無いのでこれがデュ・モーリアの(短編における)特徴といえるのかもしれないけれど、とにかく題材がバラエティに富んでいる。オールマイティといっても、クリスティのように常に金持ちと上流階級が勝つというような一定の決まりをもって書いているのがほとんどのミステリーの分野(デュ・モーリアがミステリーかといわれると違うのだと思うけれど)で、驚くほどに色に一定のものがない。淡々とした筆致が特徴といえば特徴かな。
この本の6編を読み終えて一番印象に残ったのは、読んでいる最中の印象とは異なって「皇女」だった。
これはロンダという架空のヨーロッパの専制君主国で起こった革命についての伝聞の形を取っている。私はこの手のフィクションの歴史にはあまり興味をもてないほうなのだけれど、とにかく妙に説得力がある。どうにもできずに運命の手に命と愛をゆだねてゆく女性の姿がこれまた淡々と描かれている。あ。そうか。「どうしようもなく運命に翻弄される人々」というのが、ある意味デュ・モーリアの描く人物に共通の境遇であったりするのかもしれない。
短編集「鳥」の中の「写真家」もそのタイプの作品。人生に退屈した侯爵夫人の罪の無い?遊びがいつのまにやら彼女をのっぴきならない運命に導いてゆく。当人が意識してもしなくても運命の歯車は回っているというところが残酷で、けれど全ての人々に対して運命は公平だと言っているような。
まさにじわり、じわりと運命の泥沼に絡め取られ、やがて静かに静かに声も無く沈んでゆくような。そんな無音声の悪夢を見ている気がしてしまう。それがデュ・モーリアの怖さかも。
以下、セクシュアルマイノリティ系話題に興味の無い方はスルーで。
この「破局」に収められている一編「美少年」には、文字通り美少年に翻弄される中年男性が出てくる。
本文中一度も同性愛という言葉も、何か性的な行為が繰り広げられるわけでもないが、常に後ろめたい空気とかすかな裏切り、犯罪の匂い、そしてほのめかしに満ちている。こういう小さなクルーがみな当時の「同性愛」に対する世間の風潮にささげられたものだとすれば、デュ・モーリアの結婚生活の破綻に対する失望が大きなものだったであろうことは想像に難くない。それにしても、彼女がバイセクシュアル・あるいは同性愛者だったということは、日本では本当に知られていないのね。。
ちなみに解説に書かれていたマーガレット・フォースターの著した伝記はこちら。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/0701136995/
「Aware of her sexual attraction to women since childhood, she repressed her bixsexual urges during the early years of her marriage to British war hero Major F. A. M. "Tommy" Browning, with whom she had three children. During WW II she became involved with another man and afterward had an affair with actress Gertrude Lawrence」
『子供時代から性的に女性へ惹かれるという自分に気づいていながら、夫であるブラウニング大佐(大戦の英雄であり、彼との間に3人のこどもをもうけた)と結婚してしばらくは両方の性に惹かれる衝動を抑えていた。第二次大戦中に彼女は別の男性と関係をもち、その後女優のガートルード・ローレンスとの恋に落ちた』
ではとばかりにネット検索。出てくるのは英語圏の情報ばかり。
http://www.biblio.com/authors/696/Daphne_du_Maurier_Biography.html
http://www.nndb.com/people/419/000044287/
堂々とSexual orientation: Bisexualと書かれておる。
そそそれにしてもこの写真、美しいわねえ。。
イギリス版のWikiでもカテゴリ分けで「Bisexual Writer」というジャンルに入れられている(いや、そういうカテゴリ分けってどうかなと思うけどね。。。。。。)
またもや日本語での情報はない。。。うーん。うーん。
最近のコメント