井の頭通りのゆるい坂を上りきったら、唐突にトランスが聞こえてきて、あ、代々木公園だとほっとする。走りながら見ると、スピーカーのそばに置いた折畳みチェアでサングラスのまま眠りこける少女。こんな大音量なのにと不信に思いつつ、その脱力した身体が脳裏に焼き付き、はるか通りすぎてから思い当たる。大音量だからなのか。
紅葉に誘われて入ってゆくと、しばらくその紅や黄色にとらえられて園内をさまよい歩くことになる。歩きながらふと、自分がリズムに乗っていることに気付く。ふらっとそのリズムの源へ。公園の一隅に小さな円陣をくんで座り、膝の間に挟み込んだ打楽器を打ち鳴らしている人々。南の方の民族楽器だろうか、太鼓は形も音もさまざまで、担当している一人一人がそれぞれの太鼓にあった絶妙なタイミングと打ち方で全体の演奏を作り上げる。見ながら、聴きながら、一緒にリズムを取りたくなる。打楽器はあたしの身体にまごうことなき振動そのものを刻み込む。
帰り道、あたしの自転車と信号のたびに抜きつ抜かれつとなったのは、古い国産の単気筒らしきバイク。アイドリングのリズムが、今し方聴いたばかりの打楽器に重なる。古いバイクって、太鼓なのか。リズムがわかりやすくて単純、そのぶん直球でハートに飛び込んでくる。あたしはトランスの複雑なノートより、打楽器の一打ちのほうがあうようだ。ただし、あの女の子のように安心して眠ることは不可能。なんといっても太鼓のリズムには、血が沸き立ってしまうから。
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