久しぶりに人形を見に行って参りました。
渋谷は東急本店の7階催場で行われていた人形展「ビスクドール展」。文化村の隣です。
最近の人形作家の展示会を見ていると作りはじめて2年とか5年とかの手の新しい作家が多いのですが、今回は比較的キャリアのある作家11人で、見ごたえ充分。
中でも期待して行ったのは、因間りか氏。
先月銀座の人形店で個展があったのを、見逃してしまったので今回は絶対見たかったのでした。
因間氏の5体が展示されてましたが、まず目を引いたのが、三つ折れの和人形二体。
三つ折れというのは、腰から足に細工を施して正座までできるようにしたもの。
普通に考えたら人間が正座できるのはあたりまえの構造だけど、硬い粘土や陶器でできた人形が正座をするには工夫が必要で、普通はイスに腰掛けるまでしかやらない。膝を曲げるという所作でさえ、安定して座らせるには一工夫必要だというのは、一体作ってみればわかるけれど、正座までというのは、ふくらはぎを削ったり、腿を削ったり。。。あまり美しくない出来になることが想像され、美しく仕上げるには相当の覚悟と工夫が必要なのと、ふつう人形は腰かけることまでしか要求されないので、この方式は一般的には広まらないのだと思います。
それで、今回の因間氏の三つ折れはどうかというと、見事な和服(もちろん因間氏の手製になるもの)に隠されていたのでその仕組は見れなかった(ご本人がいらしたら仕組を見せていただきたかった~)けれど、キレイに正座した人形の所作は限りなく自然。着物のすそから覗く、はだしのつま先もふっくらと美しくてうっとり眺めてしまいました。
そして着物がまたすばらしい。
今回の展示会へのご本人のコメントにあったのですが、現在和装に凝っているようで、あちこちから集めたという和物の布地や小道具を使ってそれは繊細な和人形を作り上げていました。
そして、もうひとつ注目したのは、髪。
普通創作人形ではかつら(人毛だったり化学繊維だったりモヘアだったり色々)を使います。
因間氏の人形もこれまではほとんどがかつらをかぶっていたのですが、今回の和人形は素のビスクのヘッドに、直接筆で一本一本毛を書き込んだもの。そもそも和人形には描き髪のものは多いように思いますが、因間氏のテイストの人形に描き髪はインパクトが強いです。
ゆたかに波打つはずのかつらがなくて、最初見るとびっくりするのですが、全体をよく見ると、確かにこれ以上はないバランス。丁寧に縫い上げた古布で独特の色彩が重なり合う襟元と、すっきりした描き髪の耳元に細かい手仕事でつくられた小さな髪飾りが似合っています。
一見すれば伝統的な和人形。
ふと気づくと、かなりアバンギャルド。
よくよく見ると、細やかな心配りに溢れ、気づかない部分のすべてに魂が宿った芸術品。
ここまで奥ゆかしくうつくしい作品が人の手でつくれるものだと心打たれました。
因間氏のほかの作品もそれぞれに見ごたえがありました。
一体はオルランドのシリーズ。
私が3.4年前に購入したものと同じ型から作られたと思われる一作。
深みのある肌と瞳の愛らしい少年人形。でも、人形好きとは勝手なもので、同じ型の人形でも自分が持っているものが一番と思う癖があるらしい(笑)。
それにしても可愛いひざこぞう。
普通球体関節人形は膝に球を入れて折れ曲がるように細工するのだけれど、オルランドは膝は最初からわずかに曲がっていた形で固定されている。半ズボンからのぞく、球のない自然にうつくしい膝小僧がポイントというわけです。
もう二体は、「インコ」と名づけられたシリーズ。
「しらゆき」「いちご」と名前がついており、「しらゆき」の方は氏のサイトのインフォメーションに写真が載せられています。
私が心惹かれたのは、「いちご」のほう。
オレンジのはいった赤い髪と薄い色の瞳をもった不思議な表情の少女。
ちりめんで作ったらしいジャケットを羽織って、和紙のような素材の靴を履いていましたが、これがまた西洋人形と妙にマッチしています。
そして、身なりの不思議さもさることながら、やはり惹かれる理由はなによりその表情。薄いグレー?の瞳に、吸い込まれます。全身から発する勝気さが、見る側を圧倒するのです。
どこを見ているのか分からない視線の先を見たくなるのが人形好きなのかもしれません。
今回特に所有欲をそそられたのは、三つ折れの「扇」とインコの「いちご」。
「扇」は、すでに赤札がついていた「花」と比べると地味な色合いの着物を羽織っていたけれど、私から見ると色のバランスは「扇」の方が好き。そして、「いちご」は「しらゆき」の優等生的な完璧さ(それもまた良いのですが)と比較すると、少しアンバランスなところが魅力的。
どちらも欲しいけど、両方買うと百万円(汗)。
お値段には目が飛び出るけど、その苦労を思えばすなおに納得します。造形の苦労と比較すれば、おそらく安いくらいです。
そんな人知の限界に挑戦するレベルの芸術品を気軽にデパートで見ることができるということに感謝して、展示会を後にしました。
家ですーぴー寝ている猫などを見ているとつくづく思うのですが、「命あるもの」というのは、最高の芸術です。。人間の20分の1の大きさの動物が息をして意思を表現して。。。というのを見ていると、どんな人工物も「命」には叶わないと思ってしまうのです。
でも、あるいは、「命」を創造することは人間にはできなくても、魂を作り上げることは可能なのかもしれない。
「精魂こめて」という言葉は、こういう作品のためにある言葉かもしれない。。そんな風に感じる人形たちでした。
展示会は10月22日(水曜日)まで。最終日は午後5時までの展示だそうなので、もしごらんになりたいかたは大急ぎでどうぞ。
すばらしい作品を見せていただいた因間氏のサイトは、
http://www.alpha-net.ne.jp/users2/rikaim/
でもでも、人形はやっぱり実物。実物を見るべきなのです。。。写真ではだめなのですよー。。。
bisque_imma
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