今日しかチャンスはないとばかりに、行ってきました。会社早退して←ばか
場所は浅草橋の二階建て日本家屋をそのまま使ったギャラリー。
昭和初期の建物っぽい建具がそのまま、まだ小さかった日本人向けのつくりで、人形の展示にはぴったり。
一階玄関をカラカラと開けて入ると受付。
お金を払ってまずは地階の小さな部屋へ。
土間のような四畳程度の小部屋に、直に横たえられたビスクドール。
ハニエルという名前のその人形と同じ型の人形が、今回の展示では一番多かった。
うつろな目を打ちっぱなしの天井に向けて、裸電球の明かりを受けている。
一階に戻り、受付のすぐそばの部屋で白いドレスの女の子に挨拶したら、黒光りのする廊下を抜けて、ふと開いた小部屋。どうやら仏間らしきつくりのそこに、仏壇のかわりに鎮座しているのは、壊れかけた椅子に腰掛けた少女人形。
名前はイルミナエル。
超然と人を見通すような瞳に、くっきりした鼻筋が映えている。額にかかるブロンドのウィッグは他の多くの恋月姫ドールと同じようにくるくると縮れて気まぐれに輪郭を縁取る。その瞳に射抜かれたくて、膝をついて正面に陣取ってみる。
恋月姫のビスクドールの多くは、描き目。
どういうことかというと、目玉をガラスなどで入れるのではなく、焼いたビスク(磁土)の上から削ったり色を乗せたりしてそれらしく見せるテクニック。たいてい瞳(中心)はかすかに穴が開けてあって、その部分だけは奥行きが見せられるようになっている。
最初「描き目」ときいたときは、「ガラスのほうがなんだか目玉っぽくていいのに」と思ったけれど、恋月姫の描く目は特殊な気がする。薄く色を乗せ、微妙に削り、実際は凹んでいる瞳を、盛り上がっているように見せる。すごいのは、息がかかるほど近くまで顔を寄せて目を凝らさないと、その目が実は凹んでいることに誰も気づかない。それほどにはっきりしたデッサンの力に基づく技術。
イルミナエルのビスクアイに射抜かれて、ふらふらと奥の部屋へと足を進める。
左の奥に入ってちょっとくらっとするのは、似た型の人形がずらっと畳の部屋に置かれている。
すべてが同じような下着を着けて、おそろいの姿。
後で気づいたのが、置いてあったチラシ。
「コンセプトドール」
つまり、恋月姫ドールのレプリカのようなもの。
色付けのみ作家本人が行う。
数百万単位の単価にかかわらず、いまだに購入希望のリストが途切れない恋月姫の人形を手軽に手に入れるためのひとつの手段なのか。。。購買意欲がわかない私にはわからない。
もうひとつの奥の部屋にもコンセプトドールがところ狭しと並ぶ。
人形一体一体に張り付くようにして見ているお客さんがいる。
できるだけ邪魔をしないように、ゆっくりと移動。
中央のテーブルに横たわった一体のビスクに目を奪われる。
またも、イルミナエル。このイルミナエルは目を閉じている。
挑発的に赤く艶やかな唇。震えるばかりの睫毛。
眉毛の上で切り落とされた前髪が、あどけない表情を添える。
どうもこの型に私は弱いらしい。
狭く急な階段を上がって二階へ。
部屋に入ると、目に入るのは明るく広い空間。
一階の小さく区切られた箱庭のような各部屋の印象とは全く違う。
広くとられた窓の外にはいっぱいに隅田川。遊覧船がゆうるりと川を下ってゆく。
それを背景に、窓際にしつらえられたテーブル席に腰掛けた人形たち。
行儀よく、古ぼけた木の椅子に腰掛けて、何を語らうのか。。
帰ろうと出口をむいたとき、その人が入ってきた。
恋月姫本人。
目があうと曖昧に会釈をし、存在感のない空気をまとったままで部屋の中へするすると入ってきて、スタッフと談笑をはじめている。
自分の家で家族と語らうように、人形の濃い密度そのままの中に入り込めるのは、やはり作り手自身だからなのか。。
恋月姫ドールは、確実に変化している。
私が初めて見たのはもう6年以上前。
人形店で見てその場にただただたたずみ、何時間でも眺めていたい気持ちでいた。
初めての個展は7回も見に行った挙句、会場で見つけた作家本人に夢中で話し掛けてしまったほどに心酔した。
人形は成長を遂げ、少女人形は大人の女性へと変化した。
私が夢中になった人形遊びはやがて、作家のまだ見ぬデスマスクへと変わっていった。
人形遊びはもう、いらないのか。。
暗い玄関のガラス戸を後ろ手に閉めて、ふとなにか忘れ物をしたような気持ちにとらわれてしまった。
koitsukihime_tsukimeikyu
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