見終わった後、恋人と二人で入った静かな店で、ぽつぽつと彼女が語っているのを訊いている間に、どんどん私の奥が溢れた。私は自分の一部をはっと見直した。
そんな瞬間をもらったのだ。
今まで私が垂れ流してきた言葉はなんだろう。そう、そしてこう書いた瞬間に、このテキストは風化する。書いた私自身の目に触れて。読んだ人たちの目に触れて。みるみる風化して、色あせる。
あの芝居についてはひとことも具体的なことは書きたくない。そのくらいのものを見せてもらった。
ただそれだけ。
理性、知性、理解力、そんなものと無縁な場所から嗚咽がこみ上げた。劇場で泣いているのは私一人だったのかもしれない。
なぜなのかどうしても分からない。でも、声をあげて泣きたかった。たまたま零れたのは涙で、でも本当にこみ上げたのはもっと違う何かだった。ちがう、こんなものではない。
言葉を愛し、浪費し、砕き、解体してまた積み上げる同志へ。
私は今、こんなふうに書きながらなお、言葉を捨てたい。
本を捨てたい。
なにより、この肉体を信じられるようになりたいよ。
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