フィンランド制作のトーベ・ヤンソンの番組をNHKで見た。
クルーヴハルの映像で始まったことに感動して、ほとんど泣きそうになりながら、恋人と見る。
内容はムーミンシリーズの成立した時代背景とトーベ・ラルスのヤンソン姉弟がどのようにコミックスを描いていったのか。そして日本へ渡ったムーミンがどのような変貌を遂げ、トーベはどんなふうに捉えていたのか。
シリーズが日本に紹介されたころ、本の解説には一人で孤島でお話を書いているヤンソンさん、というイメージが造られていた。そして日本ではアニメの人気が先行して、子供向けのほのぼの家族物語という側面でしか見られないところも未だにある。間違いなく一つの側面には違いないけれど、別の面もある。それが今回の番組ですらっと触れられている。
ムーミンが生まれたのはトーベの生まれたフィンランドの言い伝えの中。育ったのは戦争の色濃い背景の中、表現の抑圧を嫌う象徴のひとつとしてトーベがイラストの片隅にムーミンの姿を描いた。決して明るい側面ばかりではない。光が射せば影ができることを、はっきりと描き続けたのがトーベ・ヤンソンという作家であったと思うから、こういう取り上げ方はとても嬉しいのだ。
そして同じようにヤンソン自身についても。
婚約者であったスナフキンのモデルになったヴィルタネンや、恋人であったといわれる(番組では言及されない)ヴィヴィカのことにも触れ、ムーミンシリーズを書き終えた理由の一つとして、こう挙げている。
「トゥーリッキとの生活を大事にしたかったからです。トゥーリッキはトーベのパートナーです」
ナレーションが流れ、写る画面には、互いに笑いながらひとつボートを漕いでいる、トーベとトゥーリッキ。
日本で制作されるトーベ・ヤンソンの番組であればまず完全に無視されたであろうトゥーリッキの存在を、この番組では欠くべからざるものとしてさり気なくきちんと入れている。上記のナレーションしかり、来日したときに平成ムーミンの試写をトーベ・ラルス・トゥーリッキの三人が見たという言葉しかり。
雑誌クウネルの特集でもみつけたトゥーリッキの名前に、実を言えば涙が出るほどに嬉しかった。そうして今夜の番組を見ながら、本当に泣いてしまった。これまで透明人間のようだったトーベの恋人・人生のパートナートゥーリッキの存在がようやく少しずつ、トーベが生きていたころにあった位置、トーベの隣に戻ることを許され始めたと感じたから。フィンランドから遠く離れたこの日本でも。
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