こちらの部屋の人形と、あちらの部屋のヒトガタと、いったい何が違うのだろう。
とてつもなく高い技術と長時間の作業にたえうる忍耐。この作家はすごい人で、あたしのビスクへの興味のきっかけを作ってくれた作家。なのに、いつのころからか、絶対的オーラがどこにも感じられなくなった。あちらのヒトガタはビスクの永遠性を保たないのに、あたしの中にそれ以上の震えるものをくれる。なにが違うのだろう。
とうとう私がいる小一時間、誰も会場を訪れなかった。
展示を見終えて急な階段をコツコツ前のめりで下りているところを、怪しげな風貌の年配の男性が上ってきた。白髪が混じった肩くらいの髪をテキトーに束ね、中途半端な黄緑色のダウンジャケットの前をかきあわせながら階段を上がってくる。平日の閉廊間近な時間にのろのろ出てきた私を、誰なのか確認しようとするようにじっと見た。警戒も威圧もない、ただ観察する眼だ。商売人の眼ではなく、そこにいる人の、眼だ。
目が合ってすれ違うまでコンマ5秒。ギャラリーで麻痺した頭がいやいや働きだす。建物を出て50歩すぎ、ようやく、何のアンテナにひっかかったのかを識別する。夜想の編集長その人だった。
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