カズオイシグロの「わたしたちが孤児だったころ」の中だったと思う。
親は結局、短期的に子供の信頼を失っても、親自身が身上としていることを子供に優先することで最終的には子供の信頼を勝ち得るというような下りがある。ある意味その通りだと思う。あたしは母が泣き喚く子供のあたしを連れて離婚したとしても、今頃にはその母の決断に感謝し、今は持たない母への尊敬の念を深めていたかもしれない。けれどその一方で、病室で三人に看取られた父の「社会人」としての幸福を思うと、何もいえなくなる。そういう瞬間、人の幸福や信頼というのは単層では成り立たないということを思い知る。
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