病気の名前、というのはいろいろあるけれど、どうも深刻でいけない。
「心不全」という病名もあまりにシリアスで、まったくユーモアを受け付けない。心が不全で心不全、とかいう冗談も空元気にしか聞こえない。まったく面白くない。
つまり、Nが心不全で入院したのである。
もともと心臓に負担のかかる別の病気を持っていて、つねにエンジン空炊きいつでも全開状態なのだが、ここのところそれがひどいのは見ていて分かった。下半身はものの三十分も寝ていられないほどむくみ、上半身は異常に痩せ背中の骨は浮き、息は常にあがりっ放し。おかしいおかしいと言っていたのになかなか病院まで足が延びない。で、いよいよ駄目だとなって病院へタクシーで乗り付け、そのまま収監されてしまったわけだ。
ずうっと不整脈が落ち着かない状態。
入院と聞いても「そうか。強制的でないと休めない人だから、ちょうどいいんじゃないか」とさえ思っていたが、「心不全」と聞いた瞬間にがっくりと力が抜けた。奪われた。病室で顔を見て、酸素チューブをつけた生気のまるでない表情を見たときに、これはドラマではないのか、と呆然とした。どんだけ自分の身体に負担を掛けるのだ、なぜあれほど健康の大事さを知っていながら身体第一にできないのだと怒っていた、その気持ちがしおしおと萎んだ。本当に、もうなんでもいい、どうでもいい。冗談で済む病気なんてものはないが、例えば水虫とか、例えばケジラミとか、またはシモヤケとか、今すぐ命に関わらない病気にしてくれ。とりわけ、心不全なんてものは、望ましくないのだ。
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