電車の中で中山可穂「天使の骨」を久方ぶりに開きました。
なんとも言えず。。やはりいい。
中山可穂の中では、他の作品から群を抜いて良いと思う。
ヨルはキャラクタに不満があるみたいだけれど、私はこの本では登場人物がみな生きていると感じる。
いままで全く気にもとめなかったのに読み返して印象に残ったのは、意外にも?志織。
別れの夜、ミチルに愛を求めて拒絶される彼女の哀しさが、ほんの一行の表現で心に滲みた。
切ないのは、フランソワの死。
今だからだけれど、レスリー・チャンと重なってしまう。
フランソワの場合は不治といわれる病ゆえだった。。
夢半ばにして、愛と希望に満ちているはずの人が病に侵される自分の身体にどのように絶望していったのか。。
大学でゼミが同じだった同級生の男の子を思い出す。
卒業後上京して演劇を志し、初めて劇団でテレビ出演を果たして祝杯をあげた帰り道、新宿の伊勢丹前の歩道に突っ込んできた酔っ払い運転の車にはねられて死んだ。
夢半ば。志半ばどころか、まだその萌芽も見ていない若い命の輝きは、こんなにもあっさりとついえてしまう。
ミチルは、「猫背の王子」であまりにも絶望していた。
その絶望の深さは、けれど自分の命の輝きを消してしまうものではなかった。
そして、久美子の存在。
海辺でタンゴを踊るミチルと久美子。ふたりを見て、フランソワがつぶやく言葉が、命の叫びそのものだと感じる。
「人生は美しい。僕はまだ退場したくないよ」
どうにもこうにも「ミチル」と作者がだぶってしまう作品ではある(熱帯感傷紀行と重なるせいだけど)けれど、きっとこの時期の中山可穂にしか書けない、そういう小説だと思う。
感情教育を中山可穂の自伝的に取るファンが多いけれど、私はやっぱり「天使の骨」を一番に推したい。
だってこっちの方が命に溢れてる。
恋愛そのものが描かれているように感じる。
「純粋」という言葉を気恥ずかしく思う年になっても、やっぱり久美子の澄んだ瞳を崇めるミチルの心は、久美子のそれと同じくらいに澄んでいると思えるから。。
(artbbs 2003/04/04(Fri) 10:49 投稿より転載)
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